世界で戦うゲーム会社の社長が語る、ゲーム業界の未来 〜ソレイユ株式会社 岡本社長インタビュー〜

北米で大人気のサムライアクションアニメ「サムライジャック」をゲーム化した「Samurai Jack: Battle Through Time」が、2021年1月21日にDMM.comより発売されます(海外では2020年8月に家庭用ゲーム機向けにリリース済み)。
「サムライジャック」はゲンディ・タルタコフスキー氏によるアメリカのテレビアニメで、2001〜2004年にカートゥーンネットワークにて放送されました。2017年新しくシーズン5が公開され、今回リリースされたゲームはシーズン5と関わりがあるストーリーとなっています。
このゲームを開発したのは日本のソレイユ株式会社。主に家庭用ゲーム機向けの3Dアクションゲームを得意としており、「NARUTO TO BORUTO:シノビストライカー」「Ninjala」など有名ゲームを手がけてきた会社でもあります。
今回は、ソレイユ株式会社の社風やゲーム開発に対する思いを、代表取締役社長 岡本好古氏へインタビューしました。


Samurai Jack: Battle Through Time

 

 

人に興味が無ければ、面白いゲームは作れない!?品質重視のソレイユの社風

― 会社の特色とか風土を教えてください
毎日が文化祭みたいな感じの会社で、IT会社らしくないような節があるんですね。スマートじゃないというか(笑)。やっぱりシステムじゃなくてゲーム作りなので、チームの中でお互いの感性をすり合わせて互いにオモシロを確認し合ってます。自分が面白いと思ってても、プログラマーがそう思っていないとオモシロが実装されないので、あの手この手で「これこれ、こうだから面白いじゃん」と必死に伝えるようにしています。そういう熱を帯びた対面でのコミュニケーションを重視しているような会社ですね。形式的な会議じゃなくて関係者みんなでオープンに話すことを意識しています。
チャットとかメールで目の前にいる人にメッセージを送るとか、すごく馬鹿らしいなと思って。楽したいだけなんじゃない?と。一応、伝えましたという既成事実を作っているだけ。本当に正確に伝えるということだったら、話したほうが何倍も速い。メールとかって結構情報が飛んじゃうんで、ニュアンスとか伝わらないじゃないですか。せっかく目の前にいるんだから、ボディランゲージと表情と声のトーンを使って伝えるという所を強くしていかないと。
コミュニケーションの前提は、相手の立場に立って考えることだと思うんです。一方通行はコミュニケーションじゃないですよね。話してる中で互いに気を遣いながら相手が何を考えているのかなーとか、機嫌が良いのか、悪いのかなとか、相手を見ながらやっていくことがすごく大事だと思うので。うちの会社は1フロアで130人くらい居ますけど、パーテーションを切らずにみんな情報や雰囲気がわかるように、分断でなく融合できるようオープンな感じにしています。古い考えかもしれませんが、みんなで一致団結しないと世界で戦えないと思っています。リモートワークはうちの社風とは真逆にせざるを得ないので、なかなか苦しいと思ってます。

― 同じ業界でもそこまでコミュニケーションを重視される会社って少ない気がしますね
ゲーム業界って今では一般的な業界になってますけど、昔は好きなやつしか来ない業界で。僕らの仕事って元々はそんな格好いい仕事じゃなくて、すごく泥臭いデジタルを使ったサービス業だと思ってるんですね。最終的にゲームというものを用いてお客さんに届け、喜んでもらわなきゃいけない。結局、人を楽しませることが好きな人じゃないとゲームというものを通してお客様を喜ばすことができないんじゃないか、というのが根底にはやっぱあるんですよ。なので、人に興味があって、人というものをよく知らないとゲームは作れないかなと思っています。
なので、その訓練をオープンな環境の中で毎日しているというところもありますね。こんなことやったら人って怒るんだよとか、イライラするよなぁとか、退屈だよなぁ、笑うよなぁとか。そういう訓練をしておかないと、出来上がった物の中に人を喜ばせる成分というのがすごく少なくなっちゃうんで。ロジックだけだとだめですね。

― そういうコミュニケーション重視で面白いものを作っていくにあたって、どういう基準で人を採用しているんですか?
新卒採用と中途採用では少し求めるものが違ってて。中途に関しては、やっぱ一本筋の通ったスキルを持ってる人。当たり前な話ですけど、それがまず重要で、あとはやっぱゲームが好きな人じゃないとだめですね。
ゲーム業界って小奇麗な業界になってからモチベーションが低いという人も結構増えてきて。元々システムエンジニアだけど、ゲームにちょっと興味があって来ました、みたいな人に「どんなゲームが好きなの?」とか訊くと「最近流行ってる○○をちょっとかじりました」みたいな、そういう人は多分長く続かないのかなと思ってて。
好きなことに没頭できる力があるのかどうかというのは結構大事なので、スキルだけでも情熱だけでも難しい、それがやっぱり中途採用の基準ですよね。好きでやっているのであれば、課金何百万円しましたとかでも良いと思うんですよ。好きの表現は多様で良いと思います。
新卒に期待するのは、やっぱりゲームが好きかと、今までの人生で何やってきたか、何を感じてきたかというところ。今までの経験でちょっと面白い考えを持ってたり普通じゃないところがある人にはちょっと引っかかったりして。良い意味で。

― なるほど
付け加えて言えば、僕らの会社は…これを言うと世界病だとか海外病だとか言われるかもしれませんが、日本人以外の方をたくさん採用するようにしています。ゲームって世界に向かって発信できる珍しい仕事だと思うんですよ。そういう意味だと世界のことを知ってる人間がいないと作れないんで、技術もそうだし、その国のことを理解しているということもそうですし。最低限、英語のアレルギーくらいは無くしておきたいですね。
日本人って日本人同士が集まって、日本人だけの価値観で語る…それって世界の中で見たらマイナーな考え方だったりするんですけど、うちの場合はそうなりたくないので、視野を広げてメジャーで勝負したいというのが、まずあります。世界でゲームを作って売っていくといった時にいろんな人の考え方を知っておかないとまずいよね、みたいな、いろいろな意味で。
あと単純に、人に興味がないとゲームが作れないと思ってるんで。日本人は政治のことはあまり話さないけど、たとえば韓国や中国、アメリカの人なんかは政治に対してすごく熱かったりするし、そういうところはすごく刺激も受けるし興味も出てくるので、常に人に対しての興味、刺激っていうのはあるようにしたいですよね。個人的には世界中の建築物や食べ物、お酒が大好きです笑
それも、その土地の人が作ったものですから。
当たり前じゃないところに身を置くようにしないと、どんどん衰退していくというか、刺激もなく同じような毎日でルーチンが回って、みたいなのは一番求めてない、目指してない方向ですからね。

― すごくためになる社風ですね
根底にはゲーム業界の未来は暗いんじゃないかという漠然とした不安があるので、やっぱ危機感なんですよ。たぶんみんなと同じことやってても行き場ないですし。たぶん日本の業界って今どんどん収縮してるんじゃないですか。そんな流れの中でみんなと同じことやったらどんどん収縮するだけなんで、違う所を目指さないと。
昔のゲーム業界って日本がめっちゃ強くて、僕も憧れて入ってきた人間なので、もう一回日本の底力を世界に示したいというのは根底にはあるんですよ。後輩たちに希望と自信をもたせたいと思っています。その為には、分断じゃなくて融合していかないと強くなれないと思っています。

 

日本のゲーム業界への警鐘!いま作るべきゲームとは!?

― ご自身が今までやられたゲームで思い入れのあるものは何ですか?
結局、たぶんファミコンソフト全部なんですよ、自分を今に駆り立てているのは。当時ファミコンソフト全部やってますから(笑)。みんな貸し借りしてやってましたから。
一番好きなゲームって実は難しくて・・・マッピーにはマッピーの思い出があるし、任天堂ベースボールにはベースボールの思い出があるし。
一番面白かったのは「ゲームを友達とやってた」というその環境がすごく楽しかったんですね。一人でずっとやってるんじゃなくて、いつも誰かの家に行って「このソフト買った?」とか「まじ?山田ん家行こうぜ!」って集まってお菓子食べて、もう帰りなさいとか言われて、また来るみたいな(笑)。その一連の、ゲームを取り巻くそういうのがすごく好きでしたね。
その時の強烈な原体験を超えるゲームが大人になってからあったかというと、なかなか無いですよね。その環境ありきでしたから。すごく奇麗だなとか、お金かかってんなみたいなのはあるけど、じゃあ、あの時の熱中度を超えるものがあるかというと。ないから自分で作ってるのかも知れないですね。格好よく言えばですよ(笑)。
やっぱりあの時のファミコンの熱気とか…ああいう世界観をもう一回、日本の業界に取り戻したいなと思っていて。今はゲームの主軸が欧米に移っちゃっていて、日本で目立ってるゲームメーカーは少ないですから。

― 確かにファミコン時代のゲームはすごくシンプルで、みんなで協力してクリアしようという風潮がありましたよね
ただね、その熱中した環境を取り戻したいとは思ってるけど、それを経験したのって僕らの経験であって今の若者の経験じゃないので、俺らの子供の頃とか若い頃はこういうものに熱中したからこそ、「こういうものが面白いはずだ!」というのは、もうそろそろ捨てていかないといけないなと思ってますね。今の3Dアクションゲームとかって、今の子供たちにこれができるのかなぁというと、多分できないですよ。なんかすごく難しい。
僕らはファミコンから始まってすべての世代のゲームを経験しているので、いわばゲームエリートなんですよ。叩き上げ。2Dから勉強して3Dになって、その3Dの中でも空間でのアクションゲーム、みたいな。めっちゃエリートコースを歩んでるんですよ、アクションゲーマーとして。
でも、今の子たちって、ガチなアクションゲームというよりかは、パーティーゲーム寄りのゲームから入って育っている。そこをちゃんと理解して、もう一回アクションゲーマーを育てないと、未来は暗いんじゃないかなという危機感があるんですよ。
ゲームだけでなく、複雑になり、うるさい評論家が多くなってしまっためんどくさいエンタメは閉鎖的で、お客さんの参入障壁が高くなり、伸びしろが無いと思います。
だからこそ、未来のために、麻雀のような複雑で奥深いゲームだけでなく、その楽しさのエッセンスは残しつつカジュアルに遊べるドンジャラのようなゲームも作って、ゲーマーを広げていかないといけないと思っています。

― 確かに海外と比べると日本のゲームは簡単になっている気がしますね
その時にもう1個課題があって、今は学校教育の中で順位を付けなくなったんじゃないですか。だから勝ち負けっていうものに対してすごく曖昧になってる。負けるということの耐性も出来ていない。でもアクションゲームって勝ち負けをつけないと面白くないですよ。対戦物もそうだし、スポーツもそうじゃないですか。そこがすごい難しいテーマであって。今までは重要なテーマとして、日本海外という括りの中でゲーム作りを…「海外ではこういうの受けるから~」、「日本ではこういうの受けるけど~」という考えでやってたけど、今度はね、ジェネレーションの壁があって。
ゲームを語る人たちってもう40代とかなんですよね。じゃあ、その40代の人たちが10年後本当にやり込んでるかと言ったら、多分ね、もうほとんどゲームやってないですよ。でも、パブリッシャーも含めてやっぱり40代とか50代の人が多いんで、若い世代を育てていかないと、本当に食っていけなくなる。

― 昔みたいに学校でテスト順位貼り出しとか無いですからね。
だからゲームの遊ばれ方も変わってきてて、ゲームプレイヤーというのはeスポーツも含めてアスリート感が出てきちゃったんで、やってダメな人は「あ、俺ゲームの才能ないや」とすぐ諦めちゃうんですよ。負けたくないし。そういう人は今度は観客に回って配信とかしたりするわけですよ。だから今はプレイする人じゃなくてもゲームというものを楽しめるような、そういう場になってきたんで、そこも含めたゲームの設計というのを考えていかないといけないのかなと。見ている人でも楽しめるし、配信しやすくてコメントつけやすいようなものが求められているのかなと。
近年ハードコア系のゲームが持ち直してきていて、「やっぱゲームってこうだよね」って僕や昔からゲーム作ってきた人たちは思ってるんだけど、ただ、その先って無いんじゃない?とも思いますしね。
やる人だけじゃなくて見る人という層も結構増えてて、それを配信するという層がいて、という前提でのゲームデザインっていうのが絶対にあると思うんですよ。それをすごくシンプルな形で子供たちに提供すればもう一回ゲームコミュニティが活性化するんじゃないかなと。それは日本産のゲームであるべきなんですよ。

 

有名作品のゲームを作るということ

― 御社では著作権コンテンツ(IP)を元にしたゲームも開発されてきていますが、難しい点はありますか
当然縛りはありますよ。でもそれを言ったらどんなゲームでも予算、期間面での制約はありますし、技術的な縛りも当然あると思いますし、何かの縛りの中でゲームを作っていくことを当たり前にやるのがプロの仕事だと思っていて。
冷蔵庫を開けた時にぱぱっとある材料でどんな旨い料理を作れるかというところがすごく大事で「なんで肉ないんだよ」とか「なんで和牛じゃねえんだ」とかになったら、きりがないんじゃないですか(笑)。
ナルトやサムライジャック、鬼滅の刃などの有名IPのゲームを作らせてもらうにおいては、ファンが多く、魅力的なものをお貸しいただけるんだから、ある程度の制約は当然しょうがないと思います。

― 今後も有名IPを取り扱っていく予定はありますか?
やっぱり本線としてはオリジナル物で勝負をしていく会社にはしたいとは思いますが、今はそういう有名IPでのものづくりの中で、IPを使うとはどういうことかとか、IPとか何かとか、どう生み出し、どう続けているものなのかとか、勉強させてもらってるんですよ。すごく勉強になりますよ。
やっぱIPってキャラクターが魅力的じゃないと、そのキャラクターを愛してないと、作ってる人のね、愛がないと、お客さんも愛してくれないから。だからいろいろ学びながら、僕らが作るオリジナルIPに活かしていきたいなと思うんですよ。
多くの人にやってもらいたいという欲求は大前提としてあって、知る人ぞ知るゲームっていうのは別に作りたくないですよ(笑)。そういうのもラインナップの中にあっても良いんですけど。

― 今回開発されました「SAMURAI JACK: BATTLE THROUGH TIME」に関して伺わせてください
これもIPもので、アメリカのカートゥーンアニメで大人気の「サムライジャック」というアニメをゲーム化したものなんですよ。尊敬するゲンディ監督が作られたアニメで、それをゲーム化しないかと打診があったので、二つ返事で開発に取り掛かりました。
アメリカの有名アニメを日本の開発会社が作るということはなかなかないので、うちの会社の特色にはなるのかなとも思ったんですよ。忍者モノや侍モノのゲームを多く作ってきた自負もありますしね。

― 部屋(応接室)のディスプレイにも、忍者や侍のゲームが多く並んでますね。日本刀も!
今まで作ってきた愛すべきゲームたちなんですけど、忍者ものが多いですね。そういう意味だと日本刀(模造刀)は会社のシンボルですね。
装いは世界標準なんだけど、やってみたら「和」みたいなのは一番いいですかね。ただ、今はまだ侍と忍者というものに助けていただいてますんで。

― アメリカのIPなんてどういう経緯で受注できたんですか?
元々テクモにいたときに作った「NINJA GAIDEN」というゲームが海外で大きくウケて、僕らが作るゲームの熱狂的なファンが生まれまして。彼らに支えられながら、アクションゲームを世界に向けて作り続けていて、最近ではIP作品も作れるという実績が、サムライジャックの開発の条件である「アクションゲームで、刀を使って、IPも扱える」に合致したんだと思うんですよね。
やっぱり「作ったゲームがウケたかどうか」というのが結構大きくて、未だに「DEAD OR ALIVE」や「NINJA GAIDEN」に助けられているところが多いんで。それはそれでちょっと情けないなと思いつつも、本当にありがたいなという…。
ありがたいけど、それを超えるアクションゲームを、若い世代に向けて作りたいなと思っています。

― 今の子供たちにファミコン魂みたいなものを根付かせたいですね
そうですね、そこが一番で、お祭りを用意して彼らの思い出を創りたいと思っています。それとは別に、大人に向けたコアなアクションゲームも作りたいんですよ。超麻雀。その両方をやっぱり狙っていかないといけないんだけど、子供向けっていうところは結構やっぱり意識が薄くなってしまうんでちゃんとやらないとなと。
大人向けに僕らが思う良いゲームを作ったら、多分できると思うんですよ。めちゃくちゃ大変だと思いますけど(笑)。だけど、未来のアクションゲーマーを作るためのアクションゲームを作るというのは意識的にやらないと無理だと思うんで。最近、よく社内で言ってるんですよ。「アクションゲームの未来は暗いかもしれんぞ、胡坐をかいちゃいかんよ」って(笑)。
だって僕らが小学生の時に、今の3Dの空間を使ったアクションゲームってできました?カメラ操作とか出来ました?右スティックで。絶対できないですよ。だってボタンも少なかったんじゃないですか。十字キーとボタン2つだけだった。だから今のアクションゲームを小学生たちが複雑な操作で空間把握しながら遊んでるというのはすごいことだと思いますよ。
だけど、そこに甘えちゃいけない。

 

いかがでしたか?
ゲーム業界の未来への危機を感じながらも、それでも面白いゲームを作りたいと日々挑戦し続けている、岡本氏の情熱が届きましたでしょうか。
ゲーム開発に携わっている方。
将来携わりたいと思っている方。
それぞれゲームに対する考えがあると思いますが、今一度、近未来の日本ゲーム業界の姿を想像し、今自分がなにをすべきか、考えてみませんか。

会社情報(2020年11月現在)

会社名 ソレイユ株式会社
所在地 〒105-0014 東京都港区芝2-29-14 一星芝公園ビル7F
設立日 平成20年8月1日
資本金 100,000,000円
代表取締役 岡本好古
社員数 101名
事業内容 ゲームソフトの開発
開発実績 Ninjala (Nintendo Switch)

Samurai Jack: Battle Through Time (PlayStation4, Xbox One, Nintendo Switch, PC)

NARUTO TO BORUTO: シノビストライカー (PlayStation4, Xbox One, PC)

Travis Strikes Again: No More Heroes (Nintendo Switch)

Devil’s Third (Wii U, PC)

ホームページ https://soleilgamestudios.com